さあさ、どんどんでてくる内田本、うりゃ!かかってこんかい全部読みだ。

というわけで、本書は内田樹のあらゆる要素が詰まったエッセイ&評論集。今回はブログからの抜粋はなく、すべて原稿依頼に基づいて書かれた文章で構成され、それらを集めてむりやり分類して並べましたという感じ。文章の長さも内容もまちまちだけれど、内田話のいろんな面が楽しめる。一つの話がすぐ終わるので、空き時間に読むにも適してますな。

しかし、本書はウチダ好きな人以外に誰に勧めていいか迷うな。初めてのウチダにはむしろ別の本を薦めるし(『寝ながら学べる構造主義』とか『先生はえらい』とか)、興味のある分野(哲学とか身体論とか)がある人にはそっちに特化した本があるし、人となりを知りたければブログ読んだほうが早いし・・・。というわけで、2冊目か3冊目のウチダにお勧めします。

あと、本人もあとがきで書いているが『私のハッピー・ゴー・ラッキーな翻訳家人生』と題された文章が大変面白い。翻訳家を目指される皆様は絶対に読んではいけません(笑)。

改憲問題

2006年4月10日 読書
改憲関係の本は、『9条どうでしょう』も『日本という国』も読んだのでもういいかなと思ってたんだが、ついでだからとこれも読んでしまった。勢いで読んだが、大変面白い、めっけもんだった。

本書は少し変わった体裁になっていて、著者ではなく法学部狩田教授という架空の人物が、典型的な改憲理論をもつ(これも架空の)ゼミ生達の意見に反論していくという内容になっている。話し言葉を混ぜ読みやすく、そして理解しやすい工夫がいろいろとされている。なにより、著者が自分の意見、思いを読者に届けようとしているということが読み取れて好感が持てる。

内容的にも、改憲論者の意見がほぼ網羅されていると思われよくまとまっている。わしは、著者の意見には全面的に賛同するし同じ危機感を持つ。改憲問題は、その議論がおこっている社会的背景をきちんと見極めないと、われわれ自身が酷い目に遭うことになる質の問題である。うかつに乗ったらあきませんぜ。

で、本書の著者、愛敬浩二は1966年生まれ、芹沢一也は1968年生まれだし、わしと同世代の研究者がどんどん出てきてるんだなと改めて感慨にふける(わしも歳とったんだなという意味で)。で、次はもっと若手の高原基彰『不安型ナショナリズムの時代』にいってみます。
はいはい、内田樹の新刊ですね。今度は『オニババ化する女たち』の三砂ちづるとの対談。

正直に言って、身体論のときの内田樹は人に勧めていいのかどうかいつも迷う。面白くないというのではないんだが、目から鱗度が若干落ちるような気がするんだよな。語られていることはほとんどブログや今までの著作で言われてたことが多いので、ああいつもの(あの)話だな、ふんふん、と読んでそれで終わりというか、ドキドキ感がないのだ。

対談相手の三砂ちづるの『オニババ化する女たち』は出版時に読んだが、書いてることは面白いし納得のいくこともあるんだけど、自分に都合のいい話の展開で語っていくもんだから、反論され出したらきりがないだろうなと思った。

本書では、内田氏が三砂氏のいいところを引き出していて、対談としてよくできた内容になってなっていると思います。あと、内田氏が個人的な話をけっこうしているので、内田マニアには(いればだけど)興味深い本です。
わしが今住む街、仙台には「悪所」はないんだそうだ。いわれてみればそうだなと思う。もともと東北の地では部落差別の匂いがほとんどしないし、住みやすく快適な街で毒気もあんまりないもんな。

「悪所」でわしがイメージするのは、大阪天王寺界隈、新世界から飛田とかそのあたりだな。親戚が寺田町に住んでいて小さいころ遊びにいったときの異世界のように広がるあの地域の記憶は今も生々しく残っている。社会人になってからも一年ほど住んだのだが、汚い町で浮浪者もいっぱいいたが、気安いところで居心地はよかった。

本書は、まさにそういった「悪所」にまつわる民俗誌であり、江戸時代以前の民衆文化について興味のある人には面白いと思う。わしはそこらへんにはほとんど興味がないのでなんだが(じゃあなんで読んでるのかと聞かれると困るんだが)、河原者がおこなってきた芸能の変遷はダイナミックでなかなかに面白かった。新書で290Pは分量も多くてお買い得(いや、だからどうってこともないですが)。

日本という国

2006年4月2日 読書
本を開くまで気がつかなかったが、よりみちパン!セの新刊だった。この中学生以上対象のシリーズは、著者の選定から内容までレベルが高くて分かりやすい、今のところわしが読んだものはハズレ無しのパーフェクトだ。

で、本書は小熊英二ですよ。小熊英二といえば、日本の民主主義とナショナリズムの言説と歴史をつぶさに振り返った大書『「民主」と「愛国」』が有名であるが、その詳細かつ広範な作業と深い洞察に感銘を受けたネット友人に半ば強制的に買わされたうえに、ネットの勉強会にまで参加させられているというわしにはいわくつきの本の作者であります(貴重な知り合いも増え、会合も楽しいのでよろこんでますが)。

その小熊英二が、明治維新と戦後日本の社会の成り立ちを易しく書くとどうなるかって、無茶苦茶面白いですがな。戦後の日本とアメリカを巡る言説は最近よく目にするが、ここまで分かり易いのはそうそうないな。戦後保障や憲法9条改正や靖国参拝といった問題にも大局的な視点から触れられ大変面白かった。

これからの日本という国を考えるうえで、今までどのようななりゆきでこうなってきたのかを知るのに絶好の一冊。これを読んでもっと知りたくなった人は『「民主」と「愛国」』もお勧めですよ(といいつつ、わしもまだ全部読んでないんだけど・・・汗)。
相田みつをが嫌いだ
知り合いが今春専門学校に入学するのだが、入学前の宿題に相田みつをの本が送られてきて感想文を書けってのがあるらしい。なんで宿題?なんで相田?と思いつつも久しぶりに本屋で相田みつをを読んでみる(眺めてみる)。

わしは、15年以上前から相田みつをは知っているが、当時からどうも苦手だった。あれから随分たったからどうかなと思ったがやっぱり嫌いだ。問題は、どこがどう嫌なのか言葉にできないって言うところだ。説教臭くはあるがとくに毛嫌いするほどのもんでもないだろと理性は言うのだが、感性は今すぐこの本を叩きつけろと叫ぶのだ(笑)。

というわけで、なんで相田みつをが嫌なのかしばらく考えます。
内部告発から公益通報へ

4月に施行になる公益通報者保護法、これをうけての公益通報についての解説本(といっていいのかな)。

この法律によって、いよいよ日本でも内部告発者に対する社会的保護が明文化されたんだなと思ったら、そう喜んでもいられないようで、実態としてはいままでとあんまり変わらないか下手すりゃ後退してるという批判もあるんだそうだ(筆者が表立って批判してないのがややこしい)。公益通報という新しい言葉で内部告発の悪いイメージを改善したのと企業価値より社会的価値を優先させましょうというメッセージを発信しているぐらいがこの法律の価値なんだなと本書を読んでそう思った。

とりあえず、職場で不正を見つけたら社内のコンプライアンス部門に通報、だめらな公的機関、それもだめそうならマスコミに訴えましょう。ただし、脱税と違法政治献金は対象外なので駄目ですよ。ってことです。

最後に、公益通報を離れ、そもそも日本の法律自体が実態にそぐわず守れないものが多すぎるのではないか、そんななかでコンプライアンスを叫ぶむなしさを訴える第6章に深く同意いたしました。
本書は、内田樹、小田嶋隆、平川克美、町山智浩による憲法第9条論。いつもの内田本のパターンに沿って即買い即読み。なんといってもこの四人の面子が素晴らしすぎる。内田ブログファンにはおなじみのこのメンバーが、それぞれ憲法について論じるわけであるから読み逃すわけにはいきません。

前から思っていたのだが、内田樹はまえがきの達人である。『街場のアメリカ論』でも抜群にまえがきが面白くて(内容も面白かったのだが)、わしはまえがきだけでイってしまって後の内容は惰性で読んでしまったぐらいだ。本書においてもこれからこの四人によってどのようなことが語られるのか、この四人はどのような人たちであるのか(「トラの尾アフォーダンス傾向」のある「脱臼性の言葉」の使い手なのです、わかりませんね、読みましょう)、否が応でもこれからの読書体験にむけ期待が盛り上がる話が展開される。もし、店頭で本書を見かけたらまえがきだけでも読んでみて欲しい(9Pだし)、きっと本文も読みたくなるから。

で肝心の内容であるが、それぞれにそれぞれらしい文章ですべて面白い。ある意味似ている人たちなので、向いている方向は同じなのだが、アプローチや立ち位置の違いを堪能できる。また、四人ともそれぞれが自分のブログをもっていて、そこに書いた過去の文章を全員が引っ張ってきているのが興味深かった。わし的にはやはり内田センセイのが頭一つ抜けた面白さでありました。

ふと気付いたら、いつも読んでる内田ブログに「『九条どうでしょう』プレミアム試写会」と銘打った一文がアップされておりました、3月22日付けなのでどうも読み飛ばしてたようです。さすが内田氏プロモーションもばっちりですな、これを読むとかなり購入意欲がわくと思われますのでもれなく皆様におすすめ致します。
http://blog.tatsuru.com/archives/001622.php
第2次大戦直後のアメリカ・プロレス界にて、「卑劣なジャップ」を演じて巨万の富を稼いだ伝説の悪役レスラー、グレート東郷。さまざまな資料や証言から浮かび上がるその男の素顔は、現代に何を問いかけるのか-。


発売されたときから読みたかったんだが、ついつい後回しにしてしまった。はい、大変面白かったです。

北朝鮮の出自を隠し続け日本国民のヒーローとなった力道山、彼が唯一敬語で話した相手、グレート東郷。謎に満ちたグレート東郷の出自に疑問を抱き、それを調べながらプロレスとナショナリズムについて考察を図るドキュメンタリー。本来は映像として企画されたものが活字で日の目を見たものだそうだ。

決して、著者が意図したプロレスとナショナリズムを巡るストーリーとしては成功しているとはいいがたいと思う。ただ、その迷走する取材活動の中で語られるプロレス史、関係者のインタビューなんかが非常に面白い。この語りの中で浮かび上がってくるのは、筆者の意図していたものではなく、むしろ昭和という時代の一側面なんだろうなとそんなことを考えた。

監督不行届

2006年3月22日 読書
史上最強のオタク夫婦、庵野&安野

ふっ、わしは二人の子供が9つ違いなので戦隊物も仮面ライダーも少しは詳しいぞ(残念ながら二人とも女の子なので凄く詳しくはない)。なにしろ上の子供が卒業したころ下の子供が見だしたので、つごう10数年分ストックが頭のなかに・・・いや自慢になりませんが。

いやー、でもオタクって楽しそうだ。
わしはBSEマニアなので、これも読み。

題名がセンセーショナルにすぎるが、BSE問題を俯瞰するにはなかなかの良書であると思う。アメリカ牛の輸入再開ばかりが取り立たされるBSE問題であるが、ほかにも気を抜けないことはたくさんあると指摘してくれる。日本における食肉処理場でのピッシングの問題に触れてるのはわしの知る限り、書籍では初めて(ネットではよく書き込みを見かけるが)。

BSE問題について全般的に知りたい人にはお勧め。ただし、読んで心配になって精神衛生上はよろしくなかったとしても知りません(笑)。あ、わしはこれを読んでも牛肉は普通に食べれますよ(アメリカ産でも)。
ISBN:400430993X 新書 西原 博史 岩波書店 2006/02 ¥735

結構疲れました。良心的な本ではあると思う。
なんやかんやいって、創刊以来買ってるな。

今回は買い物の心理学特集、読むところはたくさんあるし、カラーで大きくて680円は確かにお買い得。内田春菊の『子猫考』が面白い。

しかし、本屋でこの雑誌探してたんだがなかなか見つからなくて、よくよく調べたら女性誌コーナーにありました。なるほど、たしかにそうかもしれん。

熊の場所

2006年3月16日 読書
舞城王太郎懲りずに読む。とりあえず全部読もうと思う。

本書には舞城初期の中篇3本『熊の場所』『バット男』『ピコーン』が収められている。文字は多いがさくさく読める。うーん、面白い!結論、舞城初期は文句なく面白い、以上!!
反チョムスキーなチョムスキー入門

アメリカネオコン批判の言説で有名なチョムスキーであるが、本書は彼の本業である言語学における「生成文法」の解説書・・・なんだけれども、著者の町田教授はすでに「生成文法」の限界を視野に入れて解説してくれるもんだから、「いろいろと問題はあるがこう定義されている」とか「仮定ばかりでなにひとつ実証されていない」というようなことが随所にもりこまれ、読者は、いったいこの理論をどこまで信じればいいのだろうかと思いながら読みすすまさせられることになる。

わし自身は、生成文法を勉強したかったわけではなくて、たまには脳みそを絞るような本を読んだほうがいいかなぐらいの気持ちだったので結論はどうでもいいんだが、あとがきもなく最後に【言語学に科学的な論証法をもたらすかのように見えた生成文法は、現在のままでは科学的合理性から遠ざかっていくばかりです。チョムスキーが老齢に達した今、生成文法の行く末がどうなるのか、興味深いです。】なんて書かれて終わられたら、真面目に勉強しようと思った人はどうなっちゃうんですか?わしですら、生成文法終わっちゃってるんですね、今まで読んできたのは終わった理論なんですね、チョムスキーは政治活動しとけってことなんですね、となんだか悲しい気分になったぞ(笑)。

とまあそんな具合なのであるが、たしかに解りやすいので、生成文法ってどんなもんなのかなと軽い興味を抱いた人にのみおすすめします。
この前読んだ『貧乏クジ世代』がいまいち薄味だったので、香山リカ忙しすぎて駄目だな、と期待せずに読んだが思ったよりも面白かった。昨年の小泉自民党圧勝の衆議院選挙を振り返った内容であるが、あちこちからとってきた言説の切り貼りがよくできている。そういう意味では、香山リカというよりは編集者の頑張りの賜物かもしれんな(わし予想)。

以下、もうちょっと書きたい
著者、渡部昌平氏は元、在韓国日本大使館の書記官で3年余りの韓国での勤務経験を持ち、韓国語も堪能なので大物から市井の人々まで幅広い交流をしてきたということである。あからさまに嫌韓的な題名であるが、筆者の意図は「韓国人を本当に理解せずに表面的につきあおうとしても、結局は良い交流にはならない」ということだそうで「嫌韓流」とは違う立場をとっているとのことだ。なら、題名を考え直したほうがいいんじゃないのと突っ込みたくなるところだが、まあそこはいろいろな大人の事情があるのでしょう。

で、読んでみたら意外と面白かった。韓国人社会の特徴を容赦なく切っているので韓国人には耳の痛い話が多いかもしれない。でも、偏向しているというよりは、かなり公平な目で見ている印象はある。韓国の人と付き合う必要のある人にはいいテキストなのではないだろうか、相手をできるだけ知っておくのはお互いのためにいいでしょうからね。

わしの感想だが、韓国は民主主義体制になってまだ20年、かつて日本が通ってきた道を大急ぎで駆け抜けてる感じであるな(もちろん日本と違う部分も多いが)。最先端の部分もありながら過去のものを引きずっている部分も多い、いろんな歪みを抱えながら変わっていっている、そう感じられる。おそらく現時点での韓国人は本書のイメージなのだろうが、このイメージを固定化させていると数年後には違ったイメージの韓国人像にギャップを感じるようになるんじゃないかな。
セクハラ、パワハラのリアルな事例がたくさん。

バーのある人生

2006年3月4日 読書
ISBN:4121018354 新書 枝川 公一 中央公論新社 2006/02 ¥756

これからかきます。(たぶん)
わしの愛するしりあがり寿と島田雅彦による対談&往復書簡企画。副題にあるとおり、まさに死に関する漫談を楽しめます。

漫談とはいえ、この二人の言ってることはほんとに本質を外さないので、がははと楽しく読めた上になんだか納得してしまうのである。さらさらと読め、時間つぶしにもってこい(ああ、褒めてるんですよ)。

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