学校のモンスター

2007年10月14日 読書
【諏訪 哲二 中公新書ラクレ】

わしは、著者の諏訪哲二の本は結構読んでいるからか、300Pという新書としてはちょっと長めのこの本の中で、目新しいと感じた部分はほとんどなかった。いままであちこちに書いてきたことをまとめなおしているという感じですね。まあでも、わしは著者のいっていることは、基本的に同意できると思っているし、おかしな本ではなくむしろ著者の本を読んだことない人には面白いのではないかと思う。

個人的に面白かったのは第六章「成長しなくなった若者をめぐって―速水敏彦、水谷修を批判する」、『他人を見下す若者たち』の速水敏彦の若者に対する指摘は的外れという意見はまったくそのとおりだと思うし、夜回り先生こと水谷修に対する、行動は文句なしに聖人クラスの素晴らしさだが、言ってる(書いてる)ことはちょっと変なところがあるという主張にも賛同いたします。

さて、本書の最大の問題点と思われるところはその題名なのであるが、題名が内容といまいちリンクしていないってのはまあよくあること(これも充分問題だけど)なんだけど、セールス的にみてもあんまり売れそうな題名じゃないと思うぞ。本の帯に「彼らが増殖し 学校が壊れる!」というコピーといかにも文句ばっかりいいそうな母親と影でニヤつく生徒のイラストをつけているので、出版社としてどういう本として売りたいのかってのはよく分かるんだけど、そういう内容の本じゃないだろと突っ込みたくなるよな。
西原理恵子のインタビュー&描き下ろしにひかれて久しぶりに購入(いつもは立ち読み)。インタビューも描き下ろしもよろしくて大変満足。これで450円のもとはとれた。

でも、さすが本の雑誌、読むところがてんこ盛りですな。特集がボーイズラブってのはなんだが、他にも文字がたくさんあるだけで嬉しい。特集もそのうち読むと思う。いや、読まないかな、なにしろBLにはトラウマが・・・。いまだに、高校時代に栗本薫の『真夜中の天使』(通称「まよてん」)を読んで負った心的外傷が癒えていないんだよな。なまじっか体力あったから、受け付けない話でも読みきってしまったのが運の尽き(合掌)。ぼくは同性愛は無理です。
【上野 正彦 角川oneテーマ21】

著者のことは、『死体は語る』でデビューしたころから知ってはいたが、読むのは初めて。わしの興味とはずばり重なるところなのに読まなかったのはひとえにハードカバーでばかり本が出てたからだと思う。今回は新書だったので買ってみた。

おそらく、いままでの著書も同様の内容なのだと思うが大変面白い。30年以上監察医をやってきたキャリアは伊達ではありませんな。死体の世界に興味のある人や推理小説好き、これから完全犯罪を目論んでいる人にもお勧めする。
【中島 みち 岩波新書】

本書は、「尊厳死」について真剣に向かい合ってきた著者による告発の書である。舞台は、富山県射水市民病院、1996年に世間に「尊厳死」のありかたについての議論を巻き起こした「人工呼吸器取り外し事件」、そのマスコミで流された事件のイメージと著者が丁寧なインタビューと取材で得た感触のあまりの違いに愕然とする。このような、一人のいい加減な医師の起こした事件であるにもかかわらず、尊厳死の法制化にまで進んでしまおうとしている現実に対して著者は警鐘を鳴らす。

人を断罪してしまうことに対して、著者の真摯な姿勢と懊悩は行間からにじみ出てくるようである。それでもなお、この本を書かなければならないと感じた著者に対して、限りない共感を覚える。

分量的には、本書の三分の一ぐらいになってしまった「第?章 終末期医療のこれから」の部分も大変に面白く参考になるので、「尊厳死」や「終末期医療」に興味のある人にはお勧めする。 
【荒井 千暁 ちくま新書】

面白い。面白いんだけどもったいない。話があちこち飛んで一貫性がないというか、筋道だっていない感があるのが残念。

でも、成果主義や能力主義に対する問題の投げかけや、著者が産業医として見てきた多くの事例は参考になるし、大変興味深く読める。
【内田 樹/平尾 剛 朝日新書】

相変わらず、ばんばん出てきますな@ウチダ本。文庫化も結構あるから読むほうも大変ですよ。

今回もお得意の対談&身体論で、ラグビーの平尾剛氏と楽しいお話を繰り広げております。いつものとおり、ちょいと言い過ぎでは・・・というところもあるけれど、わしは基本ウチダファンなので問題なし(笑)。

ところで、「OSの書き換え」とか「OSのバージョンアップ」という言葉が二人の口から頻繁にでてくるんだけど、これってちゃんと説明しとかないと分からない人いるんじゃないかと、お節介なようだが気になった。
【古牧 和都 晋遊舎ブラック新書】

しかし、新書ブームってのはホントなんだね、こんどはブラック新書創刊だそうで、もうどの出版社も新書新書で大丈夫なんでしょうか?

本書は立ち読み、すらすら読めてそれなりに面白いのであっという間に読み終わりました。盗聴発見業者の著者が、いままで依頼を受け戸惑ったり困った事例から、世間をにぎわす(?)集団ストーカーというものがどのようなものかを考察していく。

というか、数ページ読んで著者が言わんとしていることはすぐに分かったし、そうだろうなと思う。わしも、まったくおんなじ被害を相談されたことがあって、最初は真剣に聞いていたが途中からどう納得してもらうか対応に困った経験がある。要は、集団ストーカーというものは、主に統合失調症に起因する被害妄想によるもので、実体のないものであるということだ。本書では、たくさんの事例でそれが紹介されており、専門的な見地ではないが読み物としては大変面白い。

でも、本書で一番面白いのは、病気の人の話ではなく、単なる無知による勘違い被害妄想の部分だと思う。そこはもう、抱腹絶倒でわしも店頭で笑いをこらえながら読むのが大変だった。いやー、盗聴発見業者も大変なのねと思った一冊。
【柴山 雅俊 ちくま新書】

面白い。解離性障害の患者の世界がよく分かり、大変興味深く読めた。筆者の意識変容に対する視点もとても面白い。しかし、惜しむらくはちょいと難しく書きすぎと思われるところ、著者自身が解離の病態に苦しんでいる人たちやその家族、友人、恋人に読んでもらいたいと書いているのであれば、もう少し分かりやすい言い回しをするべきではないか。まあ、それは編集者の責に帰するところも多いのではないかとも思うが。

解離性障害といえば、とりあえず多重人格が思い浮かぶが、そこまでいかなくても、後ろに誰かがいるという感覚や、自分の姿を自分が外から眺めているという感覚、現実世界がなんだかフィルターを通して観ているように思えるといった話は結構日常的に聞くのではないだろうか。霊が見えるといったオカルティックな体験も解離性障害の視点から観るととまた違って感じられる。そういった感覚を日常的に感じている人にも本書はお勧めです。
【西野 喜一 講談社現代新書】

わしは、裁判員制度に対しては国民の裁判に対する意識を変革するという意味において支持していたんだけど、本書を読んでこれはかなり考えを改めさせられた。

著者は、まず、裁判員制度がどれだけ適当な議論と妥協で出来上がってきたものかを説きあかし、さらにそれが憲法に違反しているであろうこと、実際に施行された場合に起こりえる問題点を解説していく。裁判員に任命されそうになったときの逃れ方まで親切に書いていて至れり尽くせりな内容。

でも、これ読んでて思ったんだけど、裁判員制度って問題点ありすぎて実際に施行するの無理なんじゃないか?これで、やっぱなしってことになったら、施行に向けて準備してきた現場の人たちも泣けるよな。こんど、知り合いの現場の人に聞いてみることにする。
『働きマン』のムック本が出たとのことで、友人に借りて読んでみた。あー、これってあれだね「島耕作に聞く○○な男になるための○ヶ条」ってな本の女性版?と思ったが、そっちよりはずいぶんよく出来てました(といってもそっちを読んだことも読むつもりもないんだけどさ)。

作者の安野モヨコの目が行き届いているのがよく分かる内容で、「働きマン」を目指す女性には面白く読めるんじゃないでしょうか、ぜんぜん関係ないわしにも面白く読めましたし・・・。つか、『働きマン』って読者の男女比ってどれくらいなんだろうな?興味あるな。

で、わしが一番読んでよかったのは、登場人物のネーミングの秘密があかされていたこと!なるほど、そうだよななんで気づかなかったんだろ、誰のもじりかってのはかなり分かってたんだけどさ、一つの映画にまでは行き着かなかったよ。すっきり。
「アリスを探して!」という特集で、いきなりヤン・シュヴァンクマイエルがくるとは・・・侮れんな『装苑』。この特集はシュヴァンクマイエル以外もなかなかよろしいな。

でも、買おうとは思わなかったので立ち読みですます。

ついでに、『SIGHT』2007年秋号掲載の内田樹「小泉・安倍政治は何を失ったのか?」も立ち読み。面白い。
部屋の模様替えをしていたら、わしが小学二年生の時に読んで生まれて初めて泣いた本が出てきた―あまりにもそのときの思い出が強烈だったのでいまだに泣いたことを覚えているのだ―。数年前に実家に帰ったときにその本を発見して懐かしくてもって帰ってきたんだったよ。さすがに30年以上前の本なので、かなり傷んでいるがまだまだ読める。

さっそく小学三年の娘に読ます。ちょっとうるうるぐらいだな。わしは涙が止まらなかったというのに冷血なやつだ。まあ、おもしろかったといってたのでよしとする(親への心遣いの可能性も高いが)。
【中尾 政之 光文社新書】

失敗から学ぼうといういわゆる「失敗学」の本ですな。著者は、「人間は必ず失敗する動物だが、同じような失敗を繰り返すため、次に起こる失敗事例は過去のものと必ず類似する」ので「失敗は予測できる」と言う。まあ、仰るとおりですな、そしてそれをもってしても必ず失敗は起きるんだけれども、同じ失敗を減らすことは出来るんだから、こういった研究には価値がありますわな。

事例豊富で、それなりに楽しく読める。
最近は、営業車でFMを聴くのにも飽きてきて、ここ数日AMのNHK第二放送がマイブーム。イタリア語やら中国語やらロシア語なんかの講座を意味なく聴いている、意味はさっぱり分からんが面白い。これによって、突然外国語に目覚めるってことはまずないんだが、気分転換になりますな。

そんななか、「朗読」という番組があり、今週は中島敦の『悟浄出世』をやっていたんだが、これがまためっぽう面白い。中島敦なので漢文調で文字を見ないとどういう意味だか分からない(場合によっては見ても分からない)文章をそのまま素読してくれるのだが、格調高い文章は音読するとよいってのがよくわかる。

中島敦にかかると『西遊記』もこんなに深い物語になるのだなと嘆息しながら、青空文庫で探し出して再読。勢いに乗って『悟浄歎異』も読む。青空文庫ありがたし。
【貝谷 久宣 ちくま新書】

ここ10年ぐらいだろうか、ウツ関係の本を読んでいると、いままでの抗ウツ薬がまったく効かないタイプのうつ病の話を目にすることが増えてきた。「擬態うつ」「うつ気分」「プチうつ」「三十代うつ」とか、いろいろな名前で呼ばれていたが、それらの多くの部分はこの本で取り上げられている「非定型うつ病」なのであろう。

なにしろこの「非定型うつ病」ときたら、気分反応性があり自分にとって楽しいことがあるとうつ気分が無くなったり、それなのに都合の悪いことに対してはすぐにうつ症状がでてきて、ちょっとした自分を傷つける言葉には過剰な反応を示し落ち込んだり怒り狂ったりと周囲の人にとっては、病気なのか単なる困った人なのか判りかねるという大変に面倒くさく、またはっきりしない病気なのである。

本書は、その「非定型うつ病」について、筆者の臨床例や各国の研究データをもとに分かりやすく解説したものである。データの出典がはっきりしていること、著者自身の意見にはそうだとことわりがあること、治療方法(薬)についても詳しいことなどなかなか安心して読める内容になっており、自身や身の回りに心当たる症状の人がいる場合には参考になるのではないかと思います。
【原 研哉 岩波書店】

知り合いに薦められて読んだ、面白い。2003年の本だが、すでにこれはデザインについての定番本といっても良いのではないだろうか、内容もさることながら簡潔かつ美しい文章、そして著者自身が手がけたという装丁も素晴らしい。

とりあえず、本書の帯にも載っている第一章冒頭の文章を引用しておく
「デザイン」とは一体何なのか。これは自身の職能に対する基本的な問いであり、この問いのどこかに答えようとして僕はデザイナーとしての日々を過ごしている。二一世紀を迎えた現在、テクノロジーの進展によって、世界は大きな変革の渦中にあり、ものづくりやコミュニケーションにおける価値観が揺らいでいる。テクノロジーが世界を新たな構造に組み換えようとするとき、それまでの生活環境に蓄積されていた美的な価値は往々にして犠牲になる。世界は技術と経済をたずさえて強引に先へ進もうとし、生活の中の美意識は常にその変化の激しさにたえかねて悲鳴をあげるのだ。そういう状況の中では、時代が進もうとするその先へまなざしを向けるのではなく、むしろその悲鳴に耳を澄ますことや、その変化の中でかき消されそうになる繊細な価値に目を向けることの方が重要なのではないか。最近ではそう感じられることが多く、その思いは日々強くなっている。


これは、デザインを志す人だけでなく、より多くの人に読まれるべき本であると思う。デザインとはなにか、著者の取り組みを通じで教えられることは多い。

大人は愉しい

2007年8月20日 読書
【鈴木 晶 内田 樹 ちくま文庫】

おお、わしが未読のウチダ本が文庫化されてるではないかと、本屋で見つけ即購入即読み。内容は2000年から2002年にかけての内田樹と鈴木晶のウェブ上での往復書簡なんだが、その後内田氏が発信していくネタの原型がいろんな形で出てきており、懐かしくもあり愉しくもある。

いや、実際のところかなり知的興奮を覚えつつ読めまして、ネタ的には以後もおんなじのがでてるので、わかってるものばかりなんですけどそれがまた面白い。ウチダ対談物のエキスの詰まった本で、大変楽しめました、お勧めです。
【生田 武志 ちくま新書】

著者は、釜ヶ崎の夜回りを続けながら、自らも日雇い派遣労働に身をやつす現場の人。本書は、野宿者が置かれた現状をまさに現場から発信した貴重なルポルタージュである。

最底辺を生きる人の現場から見えてくるのは、この国の歪みであり、排除の構造であり、人々やマスコミの無関心であり、そして、そこに生きる人々自身も思い込まされている自己責任という魔物である。著者は、現状をあるがままに報告しつつ社会のありようをきちんと分析してみせる。すでに、ネットカフェ難民なる言葉が浸透しつつあるなかで、さらにこれからを考える上で非常に参考になる一冊でした。
いやー、今回もmixi様のおかげで、夜想のシュヴァンクマイエル特集の増補改訂版を買い漏らすことなく済みました、ありがとう。取り扱い店舗が少ないから普通に本屋回ってたら絶対気づかなかったな。仙台では、あゆみBooks仙台店に山積みであります、お早いうちに。ついでに、この店はなかなかサブカル系の品揃えがよろしいですな、街中なんだけど逆にわしなんかには便利が悪くていままであんまりいってなかった、これからは贔屓にいたします。

で、本のほうもなかなかによい出来で、シュヴァンクマイエルファンなら買う価値ありますよ。
【熊野 宏昭 ちくま新書】

冒頭、【この本を手にとられた多くの方は、病院にかかるほどではないけれども仕事や生活でそれなりにストレスを抱えており、時には「いっぱいいっぱい」になったり、切れそうになったりしながら、日々がんばって暮らしているのではないでしょうか。】とあり、おそらくそういった人のために書かれた本なのだろうと思う。

残念ながら、わしはストレスはほとんど感じないたちなので(たんに人生に不真面目なだけのような気もするが)自分自身には役に立たないのだが、内容は大変面白かった。

著者は、ストレスに対して「力まず、避けず、妄想せず」ととなえるのだが、この「妄想せず」の部分が大変興味深かった。われわれが対象を知覚する際には、通常ほぼ自動的に解釈したり評価する思考が起こる。しかし、その解釈、評価、感情のほとんどは個人的なバイアスがかかっているためそれが苦しみの元になる。そこで、物事を感覚のレベルで止めて、「今の瞬間」に意識を集中し余分な思考を行わない。マインドフルネスと呼ばれているこの方法は、目からうろこで刺激的でした。

全体的にみても、ストレスで苦しんでいる人には良書だと思いますのでお勧めいたします。

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