【島田 裕巳 幻冬舎新書】

面白い。日本の主な新宗教を俯瞰するにはもってこいの一冊。その成り立ちや影響がよく分かる。発行一ヶ月で5刷を数えているあたり地味に売れてるようで。どんな人が買っているのか分からないが、新宗教って何やかんや言って興味の対象なんですな。

著者のことは、オウム関係であらぬバッシングを受けた可哀想な宗教学者というイメージだったんだが、最近著書を見かけるようにもなったしようやく再起できたということなのかな、よござんした。

印象的だったのは、どんなときに新宗教が信者を増やしていったかに言及した部分で、以下抜粋。
よく「苦しいときの神頼み」といった言い方がされる。たしかに、人が宗教に頼るのは、悩みや苦しみを抱えているときである。だが、本当に苦しいときには、人は神頼みはしない。不況が長く続き、深刻化しているときには、豊かになれる見込みがないので、神仏に頼ったりはしない。むしろ、経済が好調で、豊かになれる見込みがあるときに、人は神仏に頼る。高度経済成長は、まさに神頼みが絶大な効力を発揮した時代だったのである。

なるほど。
【コニー・ウィリアムス 河出書房新社】

知り合いの英米文学マニア女子に、コニーウィルスがいかに面白く、それなのに日本であまりに知られていないかを力説されてしまったので、買って読んでみた。たしかに、一年前の本なのに初版のままですな。

本書は中篇4作で構成されているが、ヒューゴ賞やらネビュラ賞やら名だたる賞の受賞歴が合わせて12冠というすさまじさ。これはよほどすごいんだろうなと読み進むが・・・・、うーん、面白いのは面白いけど・・・うーん、それほどのものなのか?やはり米国人とは面白さの感覚が違うのだろうか?と思いつつ最後に読んだ表題作の『最後のウィネベーゴ』。これは、まごう事なき傑作でありました。

犬のいなくなった近未来のお話だが、物語の精巧さに加えその切なさ、読後にじわじわきてまた読み返したくなる。これはもう、わし的にブラッドベリの『火星年代記』やハイラインの『夏への扉』クラスの位置づけになりそうなぐらい良かった。絶対に読んでおくべし。
【荒井 一博 光文新書】

同じ経済学的視点で教育を見る内容でも、この前読んだ『子どもをナメるな―賢い消費者をつくる教育』よりは随分まし。今までの経済学的研究の成果と著者自身の意見がきちんとわけられているのが好感が持てる。真面目にきちんと読者に伝えようとしているのがよく分かる。

『「いじめ」を経済学で解決する』の章なんかも、いってることは当たり前のことなんだが、思わず納得してしまう。ただ、帯にある「なぜ大卒男子の給料は高卒の1.5倍なのか?」っていうのには答えられてない気がするんですが・・・?
【中島 隆信 ちくま新書】

文章が、語り下ろしかって言うぐらい読みやすいのがいいところ、とりあえずそれぐらい。書かれていることには同意できることも多いんだが、わざわざここで書かなくても普通そう思うでしょレベルだったり、現場を知らず思ったことを書いてるだけなのが透けて見えるのでまったく言葉に重みがなかったり、いわゆるあれですな酒場でのオヤジの政治談議ぐらいの感覚。ほおほお、あなたの言うとおりにすれば日本はさぞかしいい国になるんでしょうなと相槌でも打っておく。
【斎藤 環 幻冬舎新書】

文章は読みやすいし(というかとってもフランク)内容も面白い。
特に「社会の成熟度と個人の成熟度は反比例する」という命題にはすごく納得させられた。

しかし、本書で核の概念となっている「病因論的ドライブ」っていう言葉はちょっと分かりにくすぎるのではないかと思う。単語からどういうことを言っているのかが素直に連想できないんですけど、もっと分かりやすい表現のほうがいいんじゃないですかねえ。「システム」や「関係」に問題点を置く著者の意見にはたいへん同意できるんだけどこの言葉によってむしろ分かりにくくなってる気がするんだけど。
このまえ立ち読んだ雑誌『ダ・ヴィンチ』にこのシリーズが小学生に大人気と紹介されてたが、かなりな読書家の娘が読んでる本にこのシリーズはなかったなと思い、ためしに買って読ませてみた。

かなり、気に入った模様です。

このまま、クリスマスプレゼントをこのシリーズで誤魔化せないかと陰謀をめぐらせてるんだが、だめだろうな。

新しい道徳

2007年12月8日 読書
【藤原 和博 ちくまプリマー新書】

プリマー新書ももう70巻をこえているのか、ヤングアダルト向けを謳ってはいるが内容は濃いものが多く、わしが読んだものはすべて外れなしの10割バッター、素晴らしいの一言。

この『新しい道徳』も題名はどうかと思うが内容はとても良かった。著者は民間人初の公立中学校校長になったあの人(といっても知らないか)。成熟社会における道徳のあり方を分かりやすく説いていく。現場を分かっている人の説得力のある言葉に、うんうんと肯きながら読ませていただきました。

ついでに、中島隆信『子供をナメるな』も購入。こちらは、同じちくまではあるがちくま新書のほう。絶対に反論したくなること請け合いなんだが、たまには自分と違う意見も読んでおこうと思った次第。
ダカーポもついに廃刊かーと感慨にはふけったが買うにはいたらず、立ち読み。いやでもこの雑誌けっこう古いよな、わしの学生時代にはあったもんな。この雑誌の「くらいまっくす」を読みたいがために定期購読している後輩がいたのでまちがいない。

あ、「くらいまっくす」はエロ小説のまさにクライマックスシーンだけを選り抜いたあれです。
あー、今年も「このミス」がでる季節になったんだな、とついつい感慨深くなり購入(500円で安かったから)。

「このミス」に続いてこれから今年のランキング本、ランキング特集が目白押しになるんだよな。まあ、わしはほとんど小説読まなくなってしまったので、ランキングの妥当性とか、えーこれがこの順位は納得できん!少なくともこっちのほうが云々といった楽しみ方が出来ないのが悲しい。

あ、新書ランキングならできるか、あんまりなさそうだけどな。つか、わしがつければいーのか。年末までにやってみよ。
昨晩、わしらがモマジのライブにいっている間、とある高校生男子に留守番&子守を頼んでたんだが、カレーを作ってくれたり娘の相手をしてくれたりでほんと助かりました。つか、夕飯までは普通作らさないよな(笑)。

わしらが帰ったときには娘はすでに寝たあとで、彼を紹介してくれたネット女子も来ていたので皆でしばし歓談。いろんなネタを紹介してもらい腹を抱えて笑う。

その一つがこの『恋空』、わしはおそらくこの小説を読むことはないと思うが、アマゾンのレビューが傑作。だって1000件以上(その後どんどん削除されてるみたい)あるんだよ。しかも、ほとんどが立て読みメッセージつき。

あとはDQNネームの話題で、近頃の親の名付けセンスにびびりまくり。「海」と書いて「すかい」と読ます・・・英語読みもなんだかなあと思うが、海はシーでスカイじゃないだろ。他にも「ポチ男」とか「幻の銀侍」とか・・・まさに驚愕の世界。極めつけは、亜菜瑠(あなる)ちゃん・・・おじさんはこの子の将来を憂いますよ。

で、楽しく過ごし彼らは帰っていったわけだが・・・バイト料渡してないよ、すまんが取りに来てくれ。
【草野 厚 朝日新書】

真面目な本だし、章の頭にその章で書いていることをまとめてくれていたりと親切なつくりで良書だと思う。でも、読み通すの結構辛かったデス。

とりあえず、ODAには詳しくなった(と思う)。
【下川 裕治 講談社現代新書】

なかなか面白い「外こもり」のルポでした。「外こもり」というのは(明確な定義はないらしいが)日本で数ヶ月集中的に働き金を貯め、主に物価の安い東南アジアにいき、なにもせずぶらぶらと持ち金がなくなるまですごす人たちのことだそうだ。

彼らは、日本の競争社会からドロップアウトし、いろんな意味でゆるい東南アジアですごすことで癒され、でも日本の競争社会にもどることは良しとしない。筆者は、そんな若者たちをいくつかの類型に分けつつルポしていく。筆者自身もバックパッカーであり、彼らに対する視線はおおむね優しいが、それでも批判的な視点を忘れてはいない。

しかしなー、本書を読むとタイってほんと過ごしやすそうだよな。この本読んで外こもりになる若者が増えるんじゃないかと、そんな心配をしてしまいました。いや、わしもちょっと行ってみたくなったよ。

あ、まったく関係ないが結局ソイルのライブは行ける気配すらなかった(涙)。つぎがんばれ。
ほおほお、今月のユリイカはジョジョですか。わしは、ジョジョは連載開始から読んでたが、さすがに最近は読んでないしコアなファンでもないので(コアなファンとは「ジョジョ立ち」とか「ジョジョの奇妙な芸人」とかで検索すると出てくるのでどうぞ)とりあえず立ち読み。

なかなか面白かったのでしっかり全部読みしてしまった。ファンの人はちゃんと買いましょう。
【岩田 正美 ちくま新書】

貧困とは何か?それは、単に貧しいと言うことだけではなく、近代社会においては無くさなければならないものである。つまり、どこからが貧困か?(あってはならないラインか)という価値判断を含んだ言葉なのだ。貧困とは、定義し調査しそしてそのたびに「発見」されてきたものであり、こと日本において貧困は「ない」ものとして扱われてきた。それは、日本の社会そのものが貧困から目をそむけていたということである。

著者は、日本における貧困研究の少なさを嘆きつつも、その実態を解き明かしていく。構造的に貧困に引き寄せられてしまう層があり、彼らは貧困と言う名のバスから降りるに降りられなくなっている。また、本来は彼らを救うべき福祉制度自体が彼らを貧困に縛り付けてしまう実態がある。

貧困は間違いなくこれからクローズアップされていかざるを得ない問題であろう。これは単に、貧困に喘ぐ人たちだけの問題ではなく、社会不安の引き金となる社会全体の問題であり、それは近い将来に爆発しそうなわれわれが抱えた爆弾なんだろうなと、本書を読んでそう思った。
【高村 薫 朝日文庫】

なにが偉いって、あちこちに寄稿した文章を集めて一冊の本にしただけとはいえ、いきなり文庫でだすってのが偉い。いいぞ高村!

じつは、わしは高村薫の新聞への寄稿を楽しみにしている読者の一人であり、いつも女性とは思えない硬質な文章と論理的な内容に頷きながら読ませてもらっている。なまじ名の通った批評家、学者の寄稿より彼女の書く文章のほうが鋭くそして説得力がある。

本書は、2000年から2007年の安倍首相辞任(文庫なのになんてタイムリー!)までの時事についての評論で、ああこの7年でもいろんなことがあったなーと感慨深く読みました。
【林 直樹 講談社現代新書】

題名は「リストカット」だが、広く自傷行為について扱っているきわめてまじめでかつバランスの取れた本。自傷行為に関わる人に参考になるだけでなく、一般の人も読んでおいた方がいいんじゃないかと思う。エピローグの「贈る言葉」を立ち読みするだけでも本書に書いてあることの内容がおおまかに分かるのでお勧めする(もちろん立ち読みで済まさず買ってしまってもいい)。
【雨宮 処凛 洋泉社新書】

雨宮処凛は名前と容姿は前から知っていたが(ちゃんと下の名前もかりんと読めた)著書を読むのは初めて。最近は、格差社会における若者論を積極的に上梓しているが、本書もその流れの一冊。題名の「プレカリアート」とは、不安定な雇用・労働状況における非正規雇用者・失業者の総称。

大変面白い。読みやすいし、論旨が明確なので主張もわかりやすい。そして、わしは著者と意見を同じくする。難民化している若者は、本人の努力不足以上に、仕組み的にその状態に追い込まれているのだ。そして落ちたら最後、滅多なことでは這い上がれないのが今の格差社会の仕組みである。

本書の後半に、いろんな世代のいろんな立場の人を集めた座談会があるんだが、これがまた、こんなに狙い通りの発言が出てきていいんですか?っていうぐらい典型的な立場立場の意見が出ていて面白い。いや、仕組んだほうにしてみればしてやったりなんでしょうね。悪の元凶石原都知事との対談も、向こうがよく受けたな(肩書きが作家で女性だからだな)と思ったが、そのすれ違いっぷりがまた笑える。そりゃ、この人に負け組みの悲哀を理解しろってのは無理だわな。

ともかく、なかなか面白いので読んでみるべし。

サクリファイス

2007年10月24日 読書
【近藤 史恵 新潮社】

なにやら、『サクリファイス』(=犠牲)という題名の滅法面白いロードレースを題材にしたミステリーがあると聞いて探していたんだが、本屋ではどこも売り切れ(増刷が間に合ってない?)、図書館では順番待ちが多くていつになるか分からない状態になっており、こりゃそのうち本屋で見つけたら速攻立ち読み(ハードカバーなので買う気はもとよりない!)しなきゃなと思ってたら、運よく友人から借りることが出来た。

シンプルな話である。ミステリーというジャンルに入れるのはもったいないが、たしかに本年度のベストに選ばれてもおかしくない出来である、ずばり面白い。

日本人にはあまりなじみのない自転車レースの世界。それは、エースを勝たせるためにチームメイトが犠牲となっていく競技。そこで、アシストとして犠牲になる役割こそ自分に向いていると感じている主人公白石。レースを転戦しながらも深まっていく疑惑、ライバル、駆け引き、昔の恋、そして謀略。

シンプルな文章がいい。それでいて要領よく的確にレースを表現している。レースの駆け引きも面白いし、なかでも他チームとのレース中の会話や交流がまた良い。ミステリーの部分がなくても青春小説として充分楽しめるが、最後に題名の本当の意味が明かされていくときに、心地よい驚きと感動を得られる。スピードに乗ってあっという間に読めてしまうのが残念といえば残念(贅沢だ)。
【川崎 昌平 幻冬舎新書】

読みやすそうな文章だしこれは立ち読みで済まそう、と思ってたら思った以上に面白かったので買ってしまった。25歳のニートである著者が、思いつきでネット難民をはじめた一ヶ月間の日記。著者はなかなかに文才のあるニートで、素直で鋭い視線と自らをもネタにした笑いのセンスが素晴らしい。格差社会についての考察も本質を突いていて、ちょっとドキッとする。

一日が一章になっており、章末についている単語解説がまた面白い。この本の面白さを垣間見れると思うので「ファミレス」という言葉の解説を勝手に抜粋する。
ファミレス
屋根のあるところで夜をすごす点に最大の目的があるのだとすれば、別段ネットカフェでなくとも二四時間営業のファミレスだって良さそうに思える。が、何度か試してみたものの、あまりうまくない。なんだか落ち着かないのである。まぶしいぐらいに明るい店内の雰囲気のせいか、はたまたファミリーという言葉が、社会的、動物的意義を遂行していない(遂行できそうもない)劣悪な生物の弱りつつある本能に、あるいは深層意識に、重度のプレッシャーや強迫観念を突きつけるからか。豊富なメニューもよくない。溢れるような選択肢の数々は、「(可能性だけは)いろいろあったはずなのに、どうしてこんな人生を選んじゃったのかな」といった感じで、半生への後ろ向きな追憶に拍車をかけかねない。食べるときぐらいは何もかも忘れて食べることを楽しみたいものである。食と住をわけようとする観念が、ファミレスを敬遠させるのかもしれない。気にしなければそれですむ話だとは思うが。

【古野 まほろ 講談社NOVELS】

偶然本屋で古野まほろシリーズ(?)の最新刊が出ているのを発見したので買ったんだが、ずいぶん3巻目が出るの早くないか?4ヶ月しかたってないぞ、恐ろしく筆が早いのか?兼業作家じゃなかったっけ?まあいいけどさ。

というわけで、裏表紙には著者のなみなみならぬ思いがかかれていたので書き写す。
三部作、というのが夢でした。つい六日前までは、果たすべきそれが命題だったからです。
終わりました。
そしていまこそ勅許を得、僭越ながら申し上げましょう。
この古野まほろ、正当なる後継者、であります。

なんの後継者かってのは書いてないけど、「新本格」のってことなんでしょうね。自信というか、書き上げた達成感が感じられますな。

筆者が新本格に挑んだんだろうなと思わすところは、前作までの(心が読めるといった)特殊事情を廃していたり、じつは戦時中だったりとかパラレルワールドの話だったりするところもとりあえずはカッコにくくっておき、純粋に天愛島における事件に舞台を絞ってきていること、そしてラスト近辺でお約束で登場する敵キャラも今回は(ほぼ)ご遠慮ねがっているところなんかでも感じられる。

相変わらず、文章はまほろ語が頻発して「うげら」「ぼあし」と五月蝿かったり、ルビだらけなのも変わってない。おそらく新本格好きな人たちにはこの文章が一番引っかかると思うんだが、なぜかわしに関してはまったく気にならないので問題なし(笑)。

で、読後感なんですが、大変面白うございました。ラスト150Pぐらいはひたすら夢中で読めました。うらうらこれでもかこれでもかとアクロバティックに物語が展開していくさまはなかなかの快感でございます。おいしゅうございました。

しかし、しかしだな、あらためて考えるといろいろと納得のいかないところがでてくんだけどさ。


警告ここから先は激しくネタバレを含みますので、これから本書を読む可能性のある諸氏におかれましては、うっかり読んで後悔なされないように願います。

そもそも彼らはなんで殺されなければならなかったのかって話なんだが、男三人は集団レイプの罪があるから分からんでもない、しかし女二人も殺されてるんだからやはりヘロイン関係の話も事実であるということでいいんだよな。ヘロイン関係が架空の話でしたでは話のつじつまが合わなすぎるもんな。で、そうすると最後までそれを芝居と信じつつ真犯人役を見事にやり上げ、自殺させられてしまった彼はだな、実際にヘロインに手を染めていながら、ヘロイン関係のごたごたで仲間を皆殺しにしていった犯人役を演じてたってことになるよな。そんな秘密をばらされながら最後にみんな出てきて大団円を期待して笑いながら死んでいくバカがいるか?真の黒幕が明かされる大どんでん返しは、あいやーここまでやるかって感じで大変いいんだけど、その部分が腑に落ちないんだよな。だれかちゃんと説明してくれー(笑)。まあ不自然さって点では言い出したらきりがないんだけどさ、かろうじてバランスをとっている物語の中でも上記の部分だけは大きな瑕疵に思えて仕方がないので・・・。

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