【土井隆義 ちくま新書】

現代の若者の生き辛さを「優しい関係」をキーワードに読み解いていく若者論。なかなか面白かったが、後半のケータイ小説、ケータイ電話、ネット自殺に関する話は、読み物としてはいろんな話が出てきていいんだけど、ちょいと突っ込み不足ではないかと思う。

でも、前半はほんとに面白かった。特に、第二章『リストカット少女の「痛み」の系譜』は素晴らしい。40年近く前に自殺し、その日記『二十歳の原点』が出版され話題になった高野悦子と自傷を綴ったウェブ日記で有名になり、高校卒業後に自殺してしまった『卒業式まで死にません』の南条あや、この二人の少女を通して若者の意識がどう変わったのかを考察していく。同じ繊細な少女の日記でありながら、高野悦子にはこれから自分がどう成長しどう変わっていくべきなのかという視点があり、それがなされない苦悩がある。一方、南条あやにとっては今そこにある自分は変わらないもので、身体だけがリアルなものとしてあり、それを傷つけることによってのみリアルを感じ、絶え間ない自己承認欲求に苦しんでいる。青年期における苦悩の変わらない部分と時代によって変化してきたものが見事に切り取られて提示されている。この章だけで、充分買ったかいがありました。

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