【辛 淑玉 岩波新書】

いままでも、辛氏の本は本屋でよく見かけていたし、それなりに面白いんだろうなとは思っていたが、買って読もうって気にはあんまりなれなかった。大きな理由の一つは、題名を見ただけでだいたいどんなことが書いてあるか想像がつくってことだ。本書も、人に薦められて読んだがやはり思ったとおりの内容であった。

だからといって、本書がツマンナイというわけではない。在日、女性、低学歴の三重苦(?)の彼女が日本社会で生き抜いてきた戦いの人生は大変面白いし、事例としてあげられている社会運動に関わっている人々の話もいろいろと考えさせられる。しかし、面白く読めるってことと共感できるってことはまた少し違うようだ。

わし個人は、著者と同じく信条的には左寄りだと思うし、また国家権力に対し自らの正義を貫くために闘っていくことを貶すつもりも毛頭ない。でも、わしには本書は単なる「反権力の勧め」と読めてしまう。もちろん、著者にそのような気持ちのないことは重々分かっているんだけれども・・・。

己を捨て社会正義のために闘うってことは、たしかに崇高なことだろう。しかし、当初の目的とは違った方向に暴走してしまったり、利益追求に走ってしまったりといった運動の危険性というものもあるはずである。本書が、そういったことには一切触れず、ひたすら自分が見てきたよい事例のみを礼賛しつづけているのをみると、もうすこしリテラシーについても言及したほうがいいんじゃないかとなんだか不安になってくる。そこらへんが単なる「反権力の勧め」に読めてしまう所以なんだよな。

また、もう一つどうしても共感しきれなかった理由は、相手(敵)に対する敬意の足りなさなんだよな。味方はとことん褒めちぎり、敵はとことん貶す姿勢ってのは気持ちよくもあるんだが、敵味方を超えて相手を取り込んでしまうぐらいの懐の深さってのがあってもいいんじゃないかと、打たれ蔑まれてきた者こそ、そういった度量を持って闘うべきだとわしは思ってしまう、それは単なるセンチメンタリズムとは分かってるんだけれどもね。

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