脳と性と能力

2007年7月13日 読書
【カトリーヌ・ヴィダル、ドロテ・ブノワ=ブロウエズ 集英社新書】

面白かった。パスツール研究所所長と科学ジャーナリストが著者とくれば、最先端の脳科学の成果を分かりやすく解説した本かと思うが、じつはそうではなく、世間で喧伝される最新の脳科学の成果というものがいかに適当で信頼の置けないものかを説き、特に手を変え品を変え現れる生物学的決定論に対し異議を唱えた内容であった。

MRI(磁気共鳴画像法)という新しい技術により、脳についての知識は飛躍的に進歩した、いままでわからなかったリアル(に近い)脳の動きが、人間を解剖することなく判るのだ。しかし、だからといってなんでもわかると考えるのは早計である。競争社会に生きる科学者たちは、自分の主張に都合のいいデーターばかりを採用してしまい、また、慎重なはずの科学ジャーナリズムも流行の話題につられてついついそういった論文を掲載してしまう。それによって、右脳・左脳や男と女の脳の違い、はてまた誠実の遺伝子なるものまで大々的に報道されてしまう。

さて、では著者達の主張とはどのようなものなのか、本書を締めくくっているフランソワ・ジャコブの次の言葉がすべてをあらわしている。
生きている有機体がすべてそうであるように、人類も遺伝的にプログラムされているが、それは学習のためのプログラムだ。より複雑な有機体であれば、遺伝的プログラムの拘束力は小さくなっているが、それは行動がさまざまな角度から詳細に規定されておらず、有機体に選択の機会があるという意味だ。遺伝的プログラムの自由度は進化につれて増大し、人間において頂点に達するのだ。

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