生ける屍の死

2006年1月27日 読書
ニューイングランドの片田舎で死者が相次いで甦った! この怪現象の中、霊園経営者一族の上に殺人者の魔手が伸びる。死んだ筈の人間が生き還ってくる状況下で展開される殺人劇の必然性とは何なのか? 自らも死者となったことを隠しつつ事件を追うパンク探偵グリンは、果たして肉体が崩壊するまでに真相を手に入れることができるか?

「このミステリーがすごい!’98年版」(通称「このミス」)において、過去10年のベスト20の栄えある1位作品だけあって、確かに面白い。

死者が蘇るという設定を最大限に生かし作りこまれたストーリー。キリスト教の最後の審判と掛け合わせるため舞台はアメリカの片田舎。しかも舞台は死と屍体にかこまれた葬儀屋ときた。650ページの大作であるが、読みやすく一気に読める。

命とはなんであるか、とか哲学的な内容には入り込みすぎず、でも死の薀蓄はたんまりちりばめられ、どたばたありカーアクションありとサービスも満点。複雑怪奇に入り組んだ人間模様もすっきり解決される。確かに面白い。

しかし、しかしだなあ、すっきりしすぎてなんというか作者の情念とかそういったものが感じられないんだよな。わしは決してミステリー読みではないのでいろいろは読んでないんだが、たとえば同じ「このミス」のランキングに入ってる笠井潔の『哲学者の密室』なんかのほうがずっと好きだな。『生ける屍の死』は早く読み終えたくて一気に読んだが、『哲学者の密室』は読み終えるのが惜しくて惜しくて毎日少しずつ読んだ。

読み始めのときは、もしかしたらわしの不動のベスト『虚無への供物』の地位を脅かすのではと思ったが、杞憂であった。せっかく死を扱っているんだから、もっと独特の彩りを施された匂い立つような世界を構築して欲しかった(完全にわしのわがままな意見ですが)。いや、でも面白かったです。

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