屍体狩り

2006年1月10日 読書
この前読んだ『絵の教室』は、カラーであるのが素晴らしかったが、どうせならこの本をカラーにして欲しい。初めて読んだときから、なんでカラーじゃないのだと惜しい思いをしていたのだ。

中世ヨーロッパを中心とした死の図像を取り上げ、その時代精神を読み解き味わう「美術手帳」に連載の43話のエッセイ。著者は美術史家、この連載を期に「死体屋」と呼ばれるように。まず、題名が『死体狩り』じゃなく『屍体狩り』なのが素晴らしい。

流麗な文章は、その怪しげな内容と相まって仄暗い吸引力を発する。なによりも、彼女自身が屍体フェチであることを文章は物語る。屍体の大腿骨が美しいと語る彼女の感性は、屍体にたかる蛆や蛇、蛙(そんな描写のものが多い)をも細かく描写してやまない。また、屍体図像を求めてヨーロッパ中を訪ね歩く彼女の執念には感動を覚える。残念なのは、写真がすべてモノクロなこと、新書だから仕方ないけどやはりカラーで読みたかった。

話しは変わるが、中世ヨーロッパの王侯貴族は墓碑彫刻に腐敗死骸像(トランジ)を使った。死ぬ前に彫刻家に死後どれくらいの像とかいって注文したらしい(2,3日とか3年とか)。当然、その像は朽ち果てゆく死者(当人)の無惨な姿を晒すことになる。それが、死が日常であった彼らが残された人びとに残したメメント・モリ(死を想え)のメッセージであり、生前の罪を吐露し神の国への道を願った贖罪でもあったようだ。

マニア心をくすぐる文章と内容(何マニアだよ)。あと、読むときは一度に読むと結構辛いので、少しずつ読んでいくことをお勧めします。

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