門が閉まっていれば入らなかった――大阪小学校内児童殺傷事件の公判で、加害者はこう述べたという。
従来、犯罪対策は、犯罪者の人格や劣悪な境遇(家庭・学校・会社など)に犯罪の原因を求め、それを除去しようとすることが中心であった。しかしながら、このような処遇プログラムは結局再犯率を下げることができなかった。こうした「原因追及」の呪縛を解き、犯罪の予防に新しい視点を与えるのが、「犯罪機会論」である。
本書では、どのような「場所」が犯罪を引き起こすのか、また、物的環境(道路や建物、公園など)の設計や、人的環境(団結心や縄張り意識、警戒心)の改善を通して、いかに犯罪者に都合の悪い状況を作りだし、予防につなげることができるのかを、豊富な写真と具体例で紹介する。


あまりによく出来た紹介文だったのでそのまま抜き出した、この本の内容を端的に表している。ちなみにここでいう「縄張り意識」というのは悪い意味ではなく、自分達の住んでいる場所に対する安全やよい環境を守ろうという意識のことである。

この本のいいところは、理論だけでなく具体的な取り組み事例を多くあげていることである。なるほど納得、勉強になりますな。実際に地域の防犯に役立つ知恵が満載である。最近、近所の治安が心配とか思ってるむきには読んで損はないですよと言っておく。

しかし、この本の白眉は、第4章において実際に罪を犯した者(特に少年)の立ち直りプログラムについて言及されている点であろう。犯罪者を社会から排除し続けるだけでは、決して安全な社会は出来ない、「だれも排除されない社会」を目指す方向性の中にこそ柔軟かつ強度のあるコミュニティの未来があるとわしは思う。
この本の第3章までに書かれている取り組みとして、例えば、ハード面の改革である死角の少ない街づくりに取り組んだり、ソフト面の改革である地域の人々による安全マップの作成をして、参画意識や縄張り意識を高めたりすることはわりと容易に出来るのではないかという気がする。しかし、第4章の取り組みのように罪を犯したものに機会を与え、コミュニケーションを図り、対話していくということは、我々にかなりの意識変革を求めてくるのではないだろうか。だが、こういった意向をもった社会というものにわしは憧れるのである。わしの理想とする社会のデザインが垣間見れた一冊でありました。

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