エレファント デラックス版
2005年7月28日 映画1999年に起きた米コロラド州コロンバイン高校の銃乱射事件をモチーフに、「グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち」のガス・ヴァン・サント監督が、事件が勃発するまでの高校生たちの一日を淡々と描いた青春ドラマ。なお、本作は2003年カンヌ国際映画祭でパルム・ドールと監督賞のW受賞という史上初の快挙を果たした。
オレゴン州ポートランド郊外のワット高校。ある初秋の朝、生徒たちそれぞれの、いつもの一日が始まる。ジョンは、酒に酔った父と車の運転を交代して学校に到着。だが、遅刻した彼は校長から居残りを言い渡される。写真好きのイーライはポートレート制作の真っ最中。女子に人気のアメフト部員ネイサンはガールフレンドと待ち合わせ、食堂では仲良しの女子3人組がダイエットや買い物などの話で持ちきり。そんな中、いじめられっ子で内向的なアレックスとエリックは、ネットで入手した銃器を手に学校へ向かっていた…。
こういう映画に喜びのニコチャンマークをつけるのもどうかと思うが、観てよかったし面白かったので。
ああ、こういう切り口もあったのか、淡々とただあの日の日常を描いていくだけの映画。ほとんどは即興だという台詞は、高校生の日常をとてもリアルに醸し出している。映画自体はなにも批判しないし何が原因とも分析しない、ただ観ている我々に多くのことを考えさせる。
わしは、コロンバイン高校の事件に関しては、マイケル・ムーアのドキュメンタリー映画『ボウリング・フォー・コロンバイン』、犯人の少年の友人(この映画では主人公だ)の手記『コロンバイン・ハイスクール・ダイアリー』とみてきたので事件のあらましはおおむね理解していると思う。そのうえで、事件への解釈をほとんどおこなわなかった監督ガス・ヴァン・サントの判断は正しいと思う。このような想像を絶する事態に直面したとき、人は自分に理解できるなんらかの解釈をしようとし、原因をなにか分かりやすいものに押し込めようとする。先の『ボウリング・フォー・コロンバイン』も『コロンバイン・ハイスクール・ダイアリー』もそういった(何かに原因を押し付けようとする)態度に対する強烈な批判であった。しかし、これらもまた、それに成り代わり何らかの原因を提示していることには違いない。『エレファント』はそういうところから一歩離れて、その日の風景を淡々と(本当に淡々となんだよ)繰り返しみせていく。それに対し、こちらの頭のなかではぐるぐるといろんな想念が渦巻いていく。なんだか分からないが、邪悪なものというのはこの世界にはあって、それはもちろん自分の内部でも渦巻いているんだが、それがふとした拍子に現れてくる。我々は、まず、人間とはこういうものだということを受け入れなければならないのではないか、そんなことを考えた。
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