題名が秀逸である、ひさしぶりにおっと思わされる題名でした。ただし内容は、著者が連載していた「時評」や雑誌に書いたものを集めたものなので必ずしも題名に沿って書かれているわけではないですが。

前々から思っていたのだが、著者の斉藤環はわしと興味の対象やそれを見るときの立ち位置が非常に似通っている(正確には、わしが著者の研究領域に興味があり考え方に同意してるってことだけど)。本書では「メディア論」「若者論」「公正論」を主軸にいろいろな社会現象・事件に考察が加えられていく。内容は多岐に渡り、ニート・ひきこもり以外にも、ネット自殺や虐待、護憲問題、わいせつ裁判、触法精神障害者問題、少年犯罪などが取り上げられる。ね、わしの興味のど真ん中ばかりなのよ。

著者は、少年犯罪に関して、何か事件が起こるたびに起こるマスコミやネットでの大騒ぎを、それは「祭り」であると指摘している。誤解を恐れずにあえて「失言」してみせているのだが、なるほどそのとおりであると思う。

そして、犯罪における加害者の更正と被害者の回復について、「和解プログラム」に言及されているのも見逃せない。わしは(困難は多いが)加害者と被害者の対話・交流のなかにこそ回復への道のりがあると考える者なのでこの部分は特に興味深く読んだ。

本書を通じて、わしは著者の主張のすべてに同意できる。たまたま異論のある内容がなかったともいえるが、著者の【「専門家」とは何にでも回答できる人のことではなく、「何がわからないか」を正確に知っている存在のことなのだから。】という言葉に信頼を感じているからでもある。

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