たまにふと読み返したくなる本が何冊かある。中井英夫の『虚無への供物』やチャンドラー『長いお別れ』、半村良『妖星伝』、夢野久作『ドグラ・マグラ』、平井和正の「ウルフガイシリーズ」まあほかにもあるのだが、この本もそのうちの一冊である。少し違うのは、この本を読み返す理由は、単に文章を楽しむためであって、内容やキャラクターに思い入れがあるわけではまったくないってことだ。
実際のところ、この連作集のなかの中篇『竈の秋』なんかいまだにストーリーがよく分からない。というか、何が起こったのかさえよく分からないのだ(たぶんわしの脳みそが足りないんだが)。それでも読み返すのは、わしは山尾悠子の文章そのものにやられてしまっているからである。描写に選ばれる文体・修辞・語彙、まさに幻想文学という名にふさわしい文章だと思う、文章だけでこれだけ悦楽に浸れる作家はなかなかいない。
「――これは落ち葉枯葉のものがたり。」ではじまり、「――人びとを眠らせて、雪は真白に降り積もる。目を閉じていても見える、たとえ眠っていても、夢の底を照らすほどに満開の冬の花火は。」でおわる少女とゴーストの交流を描いた美しい短編『閑日』がとくにお勧め。
実際のところ、この連作集のなかの中篇『竈の秋』なんかいまだにストーリーがよく分からない。というか、何が起こったのかさえよく分からないのだ(たぶんわしの脳みそが足りないんだが)。それでも読み返すのは、わしは山尾悠子の文章そのものにやられてしまっているからである。描写に選ばれる文体・修辞・語彙、まさに幻想文学という名にふさわしい文章だと思う、文章だけでこれだけ悦楽に浸れる作家はなかなかいない。
「――これは落ち葉枯葉のものがたり。」ではじまり、「――人びとを眠らせて、雪は真白に降り積もる。目を閉じていても見える、たとえ眠っていても、夢の底を照らすほどに満開の冬の花火は。」でおわる少女とゴーストの交流を描いた美しい短編『閑日』がとくにお勧め。
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